歴史上あまりにも有名な太閤秀吉と、前半生が謎に包まれている「天海大僧正」の若き日の物語で、血で血を洗う争いを嫌い僧籍に身を投じた隋風(天海)が、戦乱の世をどのように見て、どのように生き抜いていったのかが生き生きと描かれていました。内田康夫さんのミステリー作品は8割ぐらい読んでいる私でも(特に浅見光彦シリーズが好きですが、岡部警部、信濃のコロンボシリーズに関しては全部読んだと思います)、実はこの作品全く知りませんでした。あとがきによると2008年の作品なんですね。
私が読むきっかけになったのは、数年前に蓮の花で有名な地元のお寺さん(興隆寺)に行って、そこが「天海大僧正」のゆかりのお寺だった、と言うことを知りました。天海大僧正自体の名前は知っていましたが、正直江戸幕府初期のえらい謎めいたお坊さん…ぐらいの印象でしたけど、その時会津の出身だというのを知ってビックリしたものです。地元の歴史は結構知っているつもりでいた私にとって、結構なカルチャーショックではありました。
- 書籍データ
- タイトル 地の日 天の海 上・下
- 著者 内田康夫
- 出版 角川e文庫 平成26年7月25日発行
- 原書 角川文庫『地の日 天の海 上』平成23年12月25日発行
もともと好きな作家さん内田康夫さんと、地元歴史キャラとのコラボに興味深々
今回たまたま、内田康夫さんの作品の中でまだ読んでなかったのあるかな?と、探していたら、えっ?ミステリーじゃない作品もあったの?と、ここでまた軽いカルチャーショックを受けた上に、ちょっと心の片隅に引っかかっていた天海さんが主人公ということで、電子書籍買って読んでみました。
もともと内田康夫さんの作品は、特に初期の方では歴史をベースにした伝説シリーズがありますから、当然歴史に造詣が深い方だとは思ってはいましたが、膨大な作品の中でおそらくは唯一の「歴史小説」のようです。織田信長、豊臣秀吉、石田三成、徳川家康など、戦国時代の有名な武将のエピソードがちりばめられていて、とても読み応えがありました。
タイトルを見ただけで「地の日=秀吉(日吉丸)」と「天の海=天海」の物語だろうなとは思いましたが、むしろ隋風(天海)の目を通した、時代そのものを描いた作品といえるかもしれません。まあこれは私が個人的に感じたことですが…
謎に包まれた天海の前半生を鮮やかに描いています
秀吉公については様々な本やドラマなどでイメージが出来てしまっているので、いまさら私が何かを付け足すこともないので、一応地元会津の出身という隋風を中心に感じたことを書いていこうと思います。
そもそも天海僧正は、江戸幕府において強大な権力を持つに至った「黒衣の宰相」として有名ですが、人生50年と言われた当時108歳(諸説あるようです)という長寿で、徳川将軍家3代にわたり仕えたと言われています。
しかし後半生に比べて、その前半生は謎に満ちています。それでも会津美里町には得度したと言われる由緒あるお寺があり(国宝のお経もあります)、両親の墓といわれるものも見つかっているようで、まあ会津の出身というのはほぼ間違いないのではないかと思いますが、ここでもそれをベースに、もう一つの伝説である「足利将軍の子」というものも絡めて書かれています。
考えてみれば田舎生まれのお坊さんというだけでは(まあ会津芦名家といえばそれなりの権威はあったかもしれませんが)、時の権力者とかかわることはちょっと難しいかもしれないですが、将軍の子という立場であればそんなに難しくもなかったかもしれませんね。
この小説では俗世を離れたつもりでありながら、戦乱に巻き込まれていく天海の苦悩と放浪、多くの死を目にして仏門にある者の務めとは何なのか…。そして家康との出会いは、その後の人生を変えていくことになるんですね。一方秀吉の人間味なども描かれていて、戦国時代を駆け抜けていくスピード感を感じました。まさに動と静の対比も鮮やかでした。
まとめ 戦国時代に興味がある人に読んでみてほしい作品
私の場合、もともとこの時代にも興味があり、特に今も記憶に残っている作品は永井路子さんの「流星」(お市の方)と「乱紋」(お市の娘おごう)の物語でした。ほかの方の作品もいくらか読んでいたはずですが、この時代についての記憶は小説にドラマ、映画がごちゃ混ぜになってしまっていて、この2作品が記憶に残っているのはおそらく、女性目線の物語だったのかもしれませんね。
それと比べるとこの時代の男性の目線で描かれた久しぶりに読む作品でしたので、ある意味とても新鮮でした。戦国時代については一つ一つの闘いについてもさまざまな記録、伝説、逸話がありますが、興味を持って記録を探すと、その堅苦しさになかなか敷居が高いのも事実ですね。
こういった「小説」を通していろんな作者さんの目線で読み重ねていくと、自然とその時代の空気が見えてくる気がします。私もまだ読んでいないこの時代の作品を、少しずつ読んでいけたらいいなと思います。特に昔は司馬遼太郎さんの作品が好きだったんですけど、まだまだ読んでいないので読んでみようかな?とか思いました。
内田康夫さんといえば「ミステリー」であり、その膨大なミステリー作品に隠れて私も知りませんでしたが、さすがに時代を築いた作家さん、その筆力と人物描写力はきっと一読の価値があると思います。
なおゆかりのお寺「龍興寺」の過去記事はこちらです
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