以前から紹介している「満月珈琲店」の4作目です。今回は「冥王星」をテーマに、北海道を舞台に物語は展開します。占星術の世界では「地の時代」から冥王星が水瓶座に移ることで、「風の時代」への転換が終わるこの時期、札幌で「春を呼ぶ音楽会」が開かれ、「満月珈琲店」のトレーラーカフェと星の使いたちが集合します。(今回は電子書籍リーダーkoboで読んだのでイラストはモノクロでした。紙版ではきれいなイラストが見られると思います。本編のほかに「幸せなシモベ」という短編もついています)そして、「メタモルフォーゼ」というサブタイトルの意味は、読んでいくにつれてわかってくるのですが…今の自分の殻を破りたい、一歩踏み出してみたいと思う人には、きっとヒントをくれる作品だと思います。
- 書籍データ
- タイトル 満月珈琲店の星詠み~メタモルフォーゼの調べ~【電子書籍版】
- 著者 望月麻衣 /画 桜田千尋
- 出版社 (株)文藝春秋
- 発行 2022年11月20日
つどう仲間とシャボン玉のわらび餅
「冥王星」が水瓶座に入る2023年3月24日を前に、「満月珈琲店」のトレーラーカフェは札幌大通り公園の一角にありました。目の前の野外ステージでは「春を呼ぶ音楽祭」の準備が進んでいます。そこには三毛猫のマスターと星の使いたちが集まりました。でも肝心の冥王星「ハデス」と海王星の「サラ」の姿は見えませんでした。「ヴィーナス」はハデスがいないことに落胆を隠せません。一方ヴィーナスの北海道を懐かしむ様子に「マーキュリー」は興味深々ですが「昔のこと」とかわされます。
そして星の使いたちの勉強会が始まります。世の中が大きく変化するこの時代について彼らは話し合います。
そもそも、この地球(せかい)は、変化を繰り返していくステージなのだ。世の中がどんなに変わっても、柔軟であることを心がける必要がある。
「しかし、変化を受け入れられる者であるためには、自分というものをしっかり持っていなければなりません。「自立」が、これからの生き方のテーマになっていくのです」
p55
「人の助けを得て、協力、共存し合いながら生きていく時代になるので、一人だけでしっかり生きていきなさいという話ではないんです」
p56
自立と共存、一見違うようですが、実はとても大切なことだと私も思います。自立できない人間が他人に寄りかかってしまっては、相手に最低限二人分の荷重がかかるわけで、共倒れになるのは目に見えていますね。自立している人でなければ変化にも対応できないし、人に手を差し伸べる余裕もあるはずはないと思います。が、現状を見ると他力本願、他責の考えがとても目に付くような気がします(私自身の自責の念もこめて)。
あと、この年になって思うのは「変化」を受け入れられる柔軟性って、本当に大切だと思います。年とともに固まってしまう思考回路と性格は、直すのはなかなか大変だと思いますが、時代の速さに取り残されないような「柔軟な心」は常に持っていたいと思います。変化に対応できるのはやはり行動あるのみですかね?今やスマホ使えないとどうにもならない時代に来ているような気もします。10年後ついていけているか、本気で心配ですが…
旅立ちと入道雲のソフトクリーム
この章では、主人公の名前は出てきません。一人称の「私」で語られます。彼女は広大な花畑の中で「満月珈琲店」のトレーラーカフェに会い、マスターが出してくれた「ソフトクリーム」を食べながら、今まで迷い続けた「大切な人に会いに行く決意」をします。
「会える時に会っておくのは大事なことですよ。機会を逃すと、二度と会えなくなってしまうこともあります」
p81 マスターの言葉
一年前結婚を目前に事故死した彼女が、残してきた彼と愛猫の住む部屋を訪ねると、まるで時を止めてしまったかのように暮らす彼がいました。どうか新たな一歩を踏み出してほしいと願いながら、再び「満月珈琲店」に戻って来て彼女は列車に乗り込みます。その時持っていたキャリーバッグがドアにはじかれて、大切な思い出の品が飛ばされて散り散りになってしまいます。
「大丈夫ですよ、あなたの大切なもののすべては、あなたの中に残っています」
p104 ハデスの言葉
そして彼女はハデス(冥王星の使い)の出してくれた「星屑のブレンド」を飲みながら、列車は「星のトンネル」を進んでいきます。
このシーン、私が大好きな歌手の「駅」という歌の歌詞を思い出させます。(特に「会いたい日、時間の中、その辺りに散らばる」という部分)しかも同じ歌手の歌に「星トンネル」という歌もあるんですよ、ちょっとびっくりしました。
そして、やはり結婚直前に彼が事故死したとある恋人たちのことが浮かびました。なので、多分普通に読む以上に胸に迫るものがあったかもしれません。そして、この物語は次のお話の伏線にもなっています。
雲海のクラムチャウダーと奇跡のルール
札幌の小さな広告会社に勤める小雪は「春を呼ぶ音楽祭」のイベントを担当しています。そのイベントのコンセプトは「メタモルフォーゼ」でした。話の流れで社長と同僚に自分の「メタモルフォーゼ」の話をします。
派遣の契約切れとワンルームマンションの契約切れになった小雪は、再婚した母の家に世話になります。ある映画の公開記念のエピソードに、亡き父と会った「満月珈琲店」のことを応募すると、沢山の反響があり、その中に明らかに同じ体験をした手紙がありました。その中の一人、札幌に住む「リラの館のマダム」からは会って話したいと言われますが、就活中の身で北海道に行くのをためらいます。そんなときに元同僚から来た面接の相手は北海道の会社でした。リモートでいいという先方の申し出に、直接札幌に行くと返事をします。もちろんマダムにも会うために。
まずリラの館に向かった小雪は、マダムこと光子の話を聞くことになります。小樽の丘の上の洋館に住む裕福なお嬢様だった光子は、高校生の時に不幸に落とされ、身を寄せた叔父に襲われそうになります。その時父からプレゼントされた飼い猫で、妹のようにかわいがっていたミーコが身を挺して助けてくれたのですが、怒った叔父によりミーコは真冬の川に捨てられてしまいます。ミーコを探してさまよった光子の目の前に「満月珈琲店」がありました。そしてずぶ濡れのミーコがそこに居ました。それから光子とミーコはどんな選択をしたのか…このエピソードは「自立」について考えさせられました。
そして小雪は広告会社に勤めることになり、リラの館に住むことになります。そして社長の桐島にもまた一つの物語がありました。
小雪の物語は以前の「本当の願い事」とリンクしています。そしていろんな話がつながっていながら、「満月珈琲店」に救われる人にはある共通したルールが存在していたのです。それがどんなルールなのかは、ぜひ本編をご覧くださいね。
そして今回は巻末に短編が載せられていました。「幸せなシモベ」というこの作品もまた、心温まる物語です。猫との暮らしを通じてコンプレックスが溶けて行って自己肯定感を取り戻すという優しい物語です。
まとめ 「冥王星」という難しいテーマが教えてくれるもの
「冥王星」ハデスは死後を司る星として出てきます。それでもこの物語ではとてもあたたかくて、星の使いたちの誰よりも頼られる存在として描かれています。そして登場人物の中にはすでにこの世の人ではない人もいます。物語の中では死後の期間だけではなく、生きている人間にも影響を及ぼすようなもっと大きな意味を持たせている気がしました。
この物語は誰かを「助ける」、何かをしてあげることの大切さを教えてくれる気がします。ここに書いたのはごく一部ですが、それぞれの立場、思いが重なって厚みのある物語になっています。ヴィーナスの過去も「こういうことか~」という感じです。
そして何よりも「人は一人で生きているわけではない」という事実を、改めて考えさせられました。ふと、私は誰かを助けているのだろうか?そして周りに助けてもらっていることを自覚しているのだろうかと考えさせられました。誰もがお互いを助けるような、そんな世界でいてほしいものです。
最近本を読むペースがかなり遅くなってきているのですが、この物語は2日で読み終えてしまいました。自分でもびっくりです。まあ…昔は1日ででしたけどね。最近では異例のハイペースでした。
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