- 書籍データ
- 作者 望月麻衣 / 画 桜田千尋
- 出版社 文春文庫
- 第1刷 2021年2月10日
- 第2刷 2021年2月25日
シリーズ第二作は月星座がテーマ
今回の作品もとてもやさしい物語でした。まずはこの作品の中から星占いの基礎知識を少し
西暦2000年ごろまでの約二千年間は、『魚座の時代』でした。そして今は『水瓶座の時代』になったわけですが、この星座の時代というのは何かというと『春分点』の話なんですよ。春分点のスタートが魚座にあった、それが水瓶座に移ったんです。
これまでは『魚座』という時代の中で、『火』『地』『風』『水』といった四つのエレメント(要素)が移り変わっていった。
『火』は起承転結の起、星座は牡羊座、獅子座、射手座、『地』は承、牡牛座、乙女座、山羊座、『風』は転、双子座、天秤座、水瓶座、『水』は結、蟹座、蠍座、魚座。そうしたエレメントが変わることを「ミューテーション」と呼び、それは二百年に一度、起こるそうだ。
introduction p16-17
『魚座の時代』が終わったのは、西暦2000年頃。その後、時代は『水瓶座の時代』へと変わった。それなに前時代である魚座の雰囲気をずるずると引きずっていたのは、『地』の時代が続いていたからだ。だが、それも2021年、正確にはこの2020年12月に『地』の時代が終わり、『風の時代』になる。2020年はその影響が出たんだ。
introduction P14
最近よく「風の時代」という言葉を目にしますが…こういうことだったんですね。そして肝心の「月星座」とは…
蟹座?いえ、私は蟹座じゃないですよ。蠍座なんです。
『月』星座のことです。あなたの太陽と月の星座。
第1章 P73
『月星座」っていうのは、普通の星座とは違うんですか?
あなたが言う『普通の星座』とは、太陽星座のことです。太陽星座はあなたの看板です。月は内側、本質であり本能であり、素の部分です。
第1章 P76
今回の作品はこの『月星座』が一つのテーマとなっているみたいですね。本当の願い事は、この月星座が握っていることになるという前提です。さて、この前提を踏まえたあらすじと心に残る言葉を…
プロローグ
純子は一家で地元のお祭りに出かけ、義妹の聡美が企画した犬・猫譲渡会に行くことになりました。昔かわいがっていた愛犬を亡くしたときに、二度と犬は飼わないと決心していた彼女でしたが、娘の愛由がある犬を飼いたいと言い出します。
「生き物を飼うっていうのは、大変なんだよ、命を預かるんだからね」
「『命を預かれる』って、すごいね。神様のお仕事みたい」
プロローグ p39
その言葉に負けて飼うことになります。また最初に母の純子と7歳の娘愛由ちゃんの違いが書かれています。
『あの指揮者さん、険しい顔ね…』
『あのおじさん、怒ってるように見えるけど、本当はすごく楽しいし、嬉しいんだよ。』
娘の声が聞こえたようで、指揮者の男性はばつが悪そうに苦笑し、楽団員たちは演奏をしながら肩を震わせていた。私は、すみません、と頭を下げて、その場から逃げるように立ち去ろうとした。
すると指揮者の男性が娘に向かって、指揮棒を持っていない方の手でバイバイ、と手を振ったのだ。
少し照れたような微笑みに、彼とは初対面だというのに、とても貴重なものを見られた気がして、嬉しくなった。
プロローグ P30
先日のことだ。時おり、家の前の公園のベンチにやってくる初老の男性がいる。彼はいつも不機嫌そうな顔をしていて、私のような子供連れの母親が挨拶をしても、しかめ面を返すだけだ。私は彼が嫌いだった。疎遠になった実の父を思い出す。いつも無口で不愛想なのに、口を開くと横暴だった。父のせいで、私の家はバラバラになってしまったのだ。この男性も同じタイプだろう。
『愛由、気にしなくていいからね』
『気にしなくていいって、何が?』
『おじさんが、挨拶をしてくれなかったことよ』
『おじさんは、声が小さくて聞こえないだけなんだよ。ちゃんと、こんにちはってしてくれたよ』
『愛由には聞こえたの?』
『ううん、お口がもごもごってしてたの。恥ずかしがり屋なのかもしれないね』
そんなわけがないだろう、と思っていた。だが、そのおじさんは帰り際に、私と愛由の前にやって来て、無言で飴を差し出したのだ。いや、無言ではなかった。たしかに、もごもごと何か言っている。
愛由の満面の笑みを見て、おじさんはそっと口角をあげた。その姿を見て、彼は愛由が言っていたように恥ずかしがり屋で、ただ不器用な人だったのかもしれない、と思わわされた。
もしかしたら、私の父も、そういう人だったのかもしれない。まさかね、と笑って私は愛由の小さな頭を撫でた。
愛由には、そんな不思議なところがあった。一見ではわからない、その人となりを感じることができるのだ。
プロローグ P31-32抜粋
純子の思い込みが、今までの家族の形そのものであるとすれば、愛由の本質を見る力が、家族の未来を変えていきます。この小さな場面でとても大切なことを教えられた気がしました。
そして一家は「満月珈琲店」の客になります。
第一章 蟹座のチーズフォンデュと射手座のりんご飴
聡美の場合 月星座が蟹座
結婚と仕事で揺れる聡美は、姪の愛由に「いつでも泊まりにおいで」と軽い気持ちで約束したのですが、一方小学一年生の愛由の方はいつ行けるかととても楽しみにしていたため、犬を飼う前にということで一日預かることになります。
そして二人は恵比寿のクリスマスイルミネーションを見に行きます。そこで白い猫に導かれてシャトーレストランの広場に行き、そこで「満月珈琲店」に…愛由にとっては二回目です。その時に聡美は猫のマスターから、自分の「月星座」の説明と「本当の願いに気づく夜になりますように」との言葉をかけられます。その時は「本当の願い?」と半信半疑だつた聡美ですが、一晩愛由と過ごし、翌日母に連れられて帰っていく愛由の後姿を見送って、自分の「本当の願い」に気が付きます。
第二章 新月のモンブランと奇跡の夜
小雪の場合 月星座は魚座
聡美の会社で派遣で働く小雪は、自分が正社員になれないことに不安を感じて過ごしていました。そして母の再婚相手と異母弟との家族にもなじめないでいました。八歳のクリスマスイブに交通事故で父を亡くしたことが彼女のトラウマでもありました。自分へのクリスマスプレゼントを買うために事故にあったと…。そしてクリスマスイブのその日、聡美の代わりに商店街のイベントに顔を出します。
その帰り道にとある美術館に足を踏み入れた小雪は、そこの屋上で「満月珈琲店」に出会います。そこには先客のスーツ姿の男性がいました。彼女はその男性をどこかで見た気がするのですが、思い出せません。
小雪は店の金髪の女性に「本当の願い事は何ですか?」と聞かれます。そこで「宝くじ」と答えるのですが「そのお願い事はきっと叶わないと思います」と即断されます。
「本当の願いごと」だったなら、「叶う力」を持っているんですよ。でも自分の想いとは、ちょっとズレている願いごとなら叶わないんです」
「宝くじに当たりたい」というのは、つまりは「お金がほしい」ってことですよね?「お金」というのは、実は、「経験と引き換えができるチケット」なんです。「あなたはどんな経験をするチケットが欲しいですか?」と、お金という名の「経験チケット」を渡す準備をしているんですよ。それなのに「いやいや、とりあえず、チケットをください。なんでもいいからください」と言われてしまっては「そういわれても」と戸惑ってしまうでしょう?渡したくても渡せない。「宝くじに当たりたい」という考えは、そういうことなんです。
第二章 p122-123
そんな風に問いに答えているうちに、小雪は自分の本当の願い事に気が付くことになります。そしてスーツ姿の男性の正体も…奇跡の夜とは?
第三章 前世の縁と線香花火のアイスティー
純子の場合 もう一人の月星座魚座
そして物語は再び純子と愛由の家族に戻ります。弟の次郎が結婚するという話を聞いてすぐに、ほぼ絶縁状態の父が入院したと知らせが入ります。高圧的な父の言動に切れた姉弟は、二人とも実家に近寄らなくなって久しく、愛由を連れて実家に向かう純子の気持ちは沈んでいました。でも愛由は「はじめておじいちゃんに会える」ととても心待ちにしています。そして人の本質を肌で感じる愛由は、祖父の心だけでなく、純子の誤解を解く鍵もくれます。コンビニに買い物に出かけて、浜辺に降りた後の記憶がなかった純子ですが、思い出したのは自分が「満月珈琲店」にいて、愛犬リンと弟と…幼い日の記憶がよみがえったことでした。そして「満月珈琲店」へ純子のことを二十一年前に依頼したのは?
ここではあえて引用はしないでおきます。気になる方はぜひこの物語を読んでみてくださいね。少なくとも私は心が洗われる気がしました。
「本当の願い事」は意外とわからないものかも
今回の物語では「家族」のつながりが一つのテーマになっていたような気がします。登場人物はそれぞれに、自分の思う家族の姿が、ある意味思い込みの産物だったことに気が付くことになります。「本当の願い事」とは「自分にとって一番大切なものは何か?」という問いかけのような気がします。そういう時に自分の「思い込み」がどれほど目を曇らせるか、目をそらしてきたことに正面から向き合うことがどれだけ大切か、そんなことを教えてくれる気がします。(あくまでも私が受けた印象ですけど)
「自分を楽しく知る方法」、それは自分の「本当の願い」を知ることです。
えっ、そんなことですか?そんなの誰でも知っているものなのではないですか?
それってね、知っているようでいて、自分の中の奥底に隠してしまって、わからなくなっている人が多いものよ。
introduction p27-28
この本を読んで改めて私の場合はどうなんだろう?と思いました。そして…「わからない」が正直なところでした。好きなことはたくさんあるんですよね。でも「願い事」となると何にも思いつかないんです。日々流されて生きているんだな~と。確かに誰でも知っているようでいて、いざ問いかけられたら答えに詰まる質問かもしれませんね。
それからお金が「経験と引き換えるチケット」って考え方、言われてみれば私には欠け落ちていた考え方でした。お金は目的ではなく、本当の目的のための手段のひとつ、そう考えればお金に対するスタンスも変わってきそうな気がします。なんのために使うか…それを突き詰めていけば本当の願い事、見えてくるかもしれませんね。
桜田千尋さんのイラスト どれも夢あふれる美しさです
あと、本の冒頭にカラーページがあります。これは前作もそうでしたが、作品の中で出てくるドリンクやデザートのイラストです。そもそも作者の望月さんは、このイラストの作者である桜田千尋さんの作品のファンで、お仕事を一緒にやることになったそうですが、とてもきれいで夢のあるイラストなんです。実は私も文庫に出会う前に、1冊買って持っていたんですよね。もともとイラストも好きなので、久しぶりに買いたいと思った画集でした。そちらの絵とそれぞれの物語の結末、興味のある方はぜひ本で確かめてくださいね。
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