自分の命を「守る力」をつけるために読んでほしい本です。どんなに冷静な人でも自分や家族ががんの告知を受けると、頭が真っ白になってしばらくは何も考えられなくなって、ほぼ二通りに反応が分かれると思います。主治医の先生の勧める治療を受けるか、それとも「ほかにもっといい治療があるはず」といろんな治療に手を出すか…。この本では専門家の方が「標準治療」こそ最高の治療だと断言しています。その理由(エビデンス)がデータをもとに書かれています。
- 書籍データ
- タイトル 世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療
- 2020年4月1日 プリント版第1刷発行
- 2020年4月1日 電子版発行
- 著者ー津川友介、勝俣範之、大須賀覚
- 発行所 ダイヤモンド社
がん患者として抗がん剤(標準治療)で生き延びてきた私の場合 決して安い治療ではなかった
かく言う私は乳がん患者(ステージⅣ)として「標準治療」をフルバージョン経験して、いまも治療を続けながら普通に生活を続けています、抗がん剤も3セット経験し、その都度いろんな副作用と戦いながらではありますけど。当初手術は出来ないかも…というサイズのがんが、治療によって小さくなり、手術も出来ましたし、「完全に消えるのは難しいと思うけど、共存しながらすこしでも長生きを目指すことは出来ます」という、主治医の先生の言葉に励まされ、今年で6年を過ぎました。そんな私が読んでみてとても納得できる内容でした。正直保険がきかなければ、しかも高額療養費制度が使えなければ、今まで受けた治療は絶対受けられなかったと思います。標準治療は決して「安い」治療ではないんですね。中には1粒約8000円の錠剤を1日2粒ずつ飲み続けた時期もありました。高額療養費制度を使っても年間数十万円の支出が6年続いているわけです。それに高いからいいというものでもないんですね。当初は目が飛び出るような値段の薬も、普及によって単価は下がっていくもののようです。
- 【参考】私の治療歴 (当初から骨転移・リンパ転移・肝転移あり)
- 放射線治療+ホルモン療法
- 抗がん剤1つ目
- ホルモン療法
- 乳房切除手術
- ホルモン療法 途中リンパ節除去手術(日帰り)
- 抗がん剤2つ目
- 抗がん剤3つ目 途中放射線治療(30回で終了)
- ↑いまここ すべて標準治療のみです
ガン治療は一人一人のオーダーメイドに近いもの 自分の命を守るために
もちろんガンは一人ずつ違うと言われるほど、自分に効いたものが別の人には効かないとか、同じ薬でも副作用がひどい人、全くない人など様々です。だからこそ専門家の判断が必須だと思います。それにしても「標準治療」というネーミングのせいでその「上位」があると勘違いしてしまう人も多いようですね。そして迷いすぎて治療のタイミングを逃してしまう、それは本当にもったいないことです。この本でも冒頭に、
怪しいがん治療法を信じたばかりに、病院での有効な治療法を受けなくなり、気づいた時には手遅れになっていた患者さんも数多くいるのです。
p3
実際に私も当初は不安に駆られていろんな本やネット情報を読み漁りました、中にはかなり信憑性のありそうなものもありました。でも逆にあまりにいろんなよくわからない治療法が出てくるのと、中には明らかに詐欺まがいのものが多いのを見て、ある意味逆に冷静になれました。これは素人判断は絶対してはいけないものなんだと。ここまで放置してしまったのは自分の責任だし、ここは素直に専門家にゆだねた方がいいと判断して、今があると思っています。(当時この本はありませんでしたしね)
がん治療で大切なことは治療法をちゃんと聞いて、リスクと効果を天秤にかけて、最終判断は必ず自分が納得したうえで決めること、これは経験上とても大事なことだと思っています。「自分が決めたんだから」という部分がないと迷いが消えません。
「〇〇さんがこういったから、勧められたから」とか、やみくもに「どうしてくれるのよ!」などと、常に他人に責任を押し付けていると、結局方針さえ決まらないことになりますね。ランチのメニュー決めとは全くレベルの違う、自分の命を懸けた選択だということです。自分も誰かの命の責任なんて取れませんよね?他人の命の責任はだれも取ってなどくれないんです。少なくとも自分(と家族)以外は…。でも医療の現場の皆さんは、常に知識と技術を磨きながらたくさんの命を救われています。
だからこそとんでも医療に引っかかって手遅れになる前に、ぜひ基礎知識として読んでおいてほしい本の一つです。
標準治療に合格するのはわずか0.01%の超難関
ここでは「保険が適用される治療法こそ、最高の治療法である」と断言されています。
標準治療として認められるまでにどれだけの関門が待ち構えているかを、データをもとに解説しています。まだ保険適用にならない「最新治療法」とは、その過程で「消えていくかもしれない」ものだということなんですね。つまり「標準治療」が1万個に1つしか残らない厳しい4段階の試験を経て残った日本代表選手だとすれば、どんなに画期的で将来性があっても出来上がったばかりで、検証がまだ終わっていない新人が「最新治療」…の違いがあるそうです。街を歩いて見つけられるレベルではないとも書かれています。
4段階のプロセスはスーパーエリートの選別のため
- 基礎研究-マウスや細胞実験 お金をかけずに効果がある可能性を探る
- 臨床試験フェーズⅠ-安全性のチェック どれくらいの用量、投与回数なら安全か
- 臨床試験フェーズⅡ-少人数で効果を確認
- 臨床試験フェーズⅢ-現時点で最も効果がある治療薬と比較
これだけの検証を経て初めて「標準治療」として認められるので、「マウスに投与したら効いた」を信用してはいけないと書かれています。しかもほとんどの薬はこの段階で脱落するそうです。
最終的にプロセス4を通過できるのは0.01%以下、1万個に1つくらい。臨床試験フェーズⅠまで進んだ薬の内最後まで進むのは3%(約1/29)、フェーズⅡでは7%(約1/14)、フェーズⅢでは36%(約1/3)。これを知っていれば、シャーレ実験やマウス実験を例に挙げたものがどんなものかわかりますね。「臨床実験中」という言葉も実験が終わるまでは分からないということですね。
- 「代替療法」‥保険外の自由診療、病院外の民間療法には科学的根拠がない
- 6年生存率‥標準治療は75%、代替療法は50%
- 特に大腸がん‥標準治療80%、代替療法35%
- 代替療法のほうが生存率が低い
数人のがんが縮小したからといって「がんに効果がある」とは言い切れない
同じがんで同じステージでも治療成績は大きく違うそうです。余命2年の患者が1年後30%、2年後50%、4年後75%が亡くなってしまう。でも5年以上生存している人が20%もいる。余命はあくまでも「生存期間の中央値」であり、5年生きることが決して奇跡ではないんですね。個別の例をみて「効果がある」とは言い切れないということです。有名な「オプジーボ」さえ、全体的には生存率は高いけれど、1年以内に亡くなってしまった患者さんは60%もいるそうです。
「知人はオプジーボによる治療を受けていたのにすぐ亡くなった。詐欺だ」といってしまうと、事実を捻じ曲げてしまうことになります。
この話を信じてオプジーボを使うことをやめると、オプジーボによって助かったかもしれない人のチャンスを奪うことになるからです。
P40-41
これは「家電の感覚」で医療データを見てしまうことによっておこるそうです。家電はどこで買っても性能は同じですが、人間はそれぞれ全く違う生物であり、同じ部品を使った機械ではありません。
ウソの体験談で大金を稼ぐ業者たちに騙されないために
残念なことに人の弱みに付け込んで儲けようとする人間は後を絶ちませんね。ここではウソには「事実の誇張」も含まれると言います。「がんに効く」といえば高額でも飛びついてしまう人がいるんですね。
そんなウソに騙されないためには「個別の例を強調する記事を信じずに、きちんと数百例のデータがあるかどうかを見ることが重要です」とのことです。ウソの多くは個別の例をでっち上げたものがほとんど、さすがに数百例をでっち上げるのはむずかしいということですね。
標準治療ってどんなことをするの?3つの標準治療
手術-ガンがある部分を切り取る
紀元前から行われている最も古い治療法。ただ、ガンは他に広がったり移動したりしてしまうので、拡大手術が主流だったそうです。最近は他の治療法の進化により縮小手術が主流。内視鏡やロボット手術も登場していますね。私も右胸全的しています。リンパ節はその後手術していますが取り切れず放射線治療をしました。
放射線治療―がん細胞に放射線を当てて破壊する
体へのダメージは少ないものの、一定の確率で副作用が起きる。だるさ、食欲不振、皮膚のただれなど。(私もだるさ、皮膚のただれが出ました)効果の出やすいがんと、出にくいがんがある。新しい治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ、IMRTなど)も保険適用になっている。
私もこれを2回経験しています。一番最初に脊椎と肩の骨転移に、最近腰の骨転移とわきのリンパ節の残ったものに。一番つらかった副作用はやけどのように皮膚がただれてしまうことでした。それでも数年の間に機械は格段に進化して、かなりピンポイントの治療になっていました。回数が少なければ副作用も気にならない程度だと思います。
抗がん剤治療―体全体に薬を巡らせてがんをやっつける
抗ガン剤はいまだに誤解が多い治療法。現在は150以上の種類があり、新しい薬も出てきている。副作用のコントロールも昔とは違いかなり楽になってきている。(これは私も実感しています。最初は御飯が全く食べられなかったのに、2つ目、3つ目では食欲は落ちませんでした。薬により副作用の出方も強さも違うようですが、なんとか日常生活はできています)それと、全く効かないがんはないけれど、万能ではないということです。
- 抗がん剤の3つの副作用
- 吐き気―80%はなくせる
- 脱毛―冷やせば抑えられる
- 白血球減少―免疫力が落ちる
私はすべて経験済みです。脱毛は3つの抗がん剤のうち1回目と3回目の2つで経験しました。やっとはえそろって、そろそろウイッグとさようならかな?と思った矢先に、3つ目の抗がん剤で脱毛して、その直後病院に頭を冷やす装置が導入されました。なので効果のほどは分かりませんが…少しは違ったかな?と思いつつ、何事もタイミングだから仕方ないと思い直して、新しい髪が生えそろう日を楽しみに待つことにしました。いまは全体に産毛のような毛がふわふわしてます。ウイッグとさよならする日はまだまだ先のようです。
抗がん剤の副作用による死亡で一番多いのは免疫力が落ちているときにかかる感染症。本人に自覚がないだけに厄介なようです。(白血球の減少は血液検査の数値でしかわからないので)ただ、抗がん剤の副作用に対する治療はかなり進んできているようです。
この後もいろいろながんの現状や緩和ケアのことなどが書かれています
ここまででこの本の約1/3に書かれているポイントです。この後も日本のがん治療の現状とか、緩和ケアのことや未承認治療の実体などが、データとともに書かれています。続きと詳しい内容が気になる方はぜひ本書で読んでみてくださいね。私の体験も結局は一例にすぎませんし、これからどうなるかもわかりませんが、標準治療を選んだことには後悔はありません。
この本がすべてとは言いませんが、世界で活躍する3人の日本人研究者が書いた本です。以前は海外の例が書かれた本がほとんどで、なかなかこういう本にはめぐりあえませんでした。がんで悩んでいる人はこの本を一度読んでみてほしいと思います。すくなくとも私が読み漁った中では、一番納得がいく本でした。
この本の帯にはこう書かれています「後悔しないために最初に読む本」と。タイトルにも入れてありますが、大事なことだから再度ここに書いておきます。
どうか「標準治療」と「先進治療」という名前に、松竹梅なら標準が竹で先進が松だろうなどと勘違いしたあげく、チャンスを失う人が一人でもいなくなることを願うばかりです。
今はとにかく数年で目まぐるしく進歩しているのがガン治療の現場のようです。目の前でどんどん変わっていく現実を見ていると、このまま頑張り続ける勇気がもらえる気がしています。
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